ルベンは2013年にカティイルという町でストリートチルドレンとして保護され、HOJにやってきました。
一緒に保護された弟のレナン、ストリート仲間のノノイ、エスエスと4人でHOJに入ることになりました。
カティイルは2012年の12月に巨大台風「パブロ」によって甚大な被害を受けていました。
この子たちはその台風以前からカティイルで気ままなストリート暮らしをしていたのですが、
住んでいた町が壊滅的な打撃を受け、そこに住んでいる人たちが「それどころではない」状態になったため、
ストリートでの生活が行き詰ってしまったのです。
HOJに入ってきた時点で、ルベンのストリート生活歴はすでに3年。
自由気ままに暮らしていたルベンにとって、規律ある共同生活になじむのは大変なことでした。
共同生活の暗黙のルールが一切通じないので、他の子のものは勝手に取る、キッチンにあるものは勝手に食べる、
好き勝手な時間に出ていき、好き勝手な時間に帰ってくる…と、やりたい放題です。
しかも彼が育ったカティイルは、HOJ近辺で使われているビサイヤ語とは異なる、「マンダヤ語」を話す地域です。
ビサイヤ語がほとんど通じないルベン達には、お説教の言葉もどこ吹く風です。
このケース、さすがに受け入れは難しいんじゃないか?と思ったことも1度や2度ではありませんでした。
ですがそんなルベンも、HOJの子たちと一緒に遊んでいく中で、少しずつ適応していきました。
バスケのような「お互いに知っているルール」の遊びを媒介にして少しずつ一緒に遊べるようになり、
もともとストリートの知恵にあふれたルベンは、男の子たちの人気者になっていきました。
ビサイヤ語にもあっという間に慣れて、話も通じるようになったルベンは、ストリート時代の話をよくしてくれましたが、
台風の話は決してしませんでした。
どんな体験だったのか、興味はありましたが、本人が話したくないなら掘り返すのはやめよう、と思っていました。
するとある日、ルベンがギターで遊びながら、でたらめにギターをかき鳴らしながらこんな歌を歌いはじめました。
♪台風パブロがやってきて 家も学校も壊れちゃった
そこいらじゅうが死体だらけ 臭くて臭くてたまらない
そこいらへんに埋めました 墓に行こうにも道がない
台風パブロは怒ってる 誰も誕生日を祝ってくれないから♪
ストリートで暮らしていた彼が、台風の直後、多くの人が避難して誰もいなくなった町の中で
どんな暮らしをしていたのかが垣間見え、この子の経験してきたことの重さを改めて確認しました。
それと同時に、この歌をギターを弾きながら楽しそうに歌うルベンを見て、
音楽のすごさ、こどもの心のすごさにも改めて気づかされました。
その後、ルベンは念願の学校にも通うことになり、教会では神父さんの手伝いもするようになりました。
学校も教会も、昔は近寄るだけで追い払われる場所だったのが、今では自分の居場所になったのです。
小学校では1年生でしたが、「よくお手伝いをする」子として表彰されるほどでした。
そして、久々に実家を訪問しました。ずっと前に家出したきり帰っていなかったので、実に4年ぶりの実家です。
実家は海外のNGOの支援でできた、台風で家をなくした人たちのために作られた村に引っ越していました。
水道も電気もない村ですが、できたばかりの村は復興への希望に満ちていて、なんだかとても素敵な場所でした。
同じ間取りの家が何軒もならんだその村の中に、明らかに他の家よりもボロボロな家がありました。
他の家が少しでも生活の質を向上させようと、花を飾ったり、カレンダーを貼ったり、家の周りに砂利を撒いたりしている中、
その家は戸板や階段板がはずれてボロボロ、家の周りはぬかるんで泥まみれです。
たった1年でこんなに差が出てしまうってどういうこと?と思って中に入ると、そこにはひしめくようにこどもたちがいました。
数えてみると7人。福祉局の人の話では、この家のこどもは全部で13人(うち4人はすでに病死)とのこと。
ルベンは長男で、お母さんが14歳くらいのときに産んだ子で、育てきれずに育児放棄されていたので家出した、という事情でした。
大家族や貧困家庭はたくさん見てきましたが、ちょっとこの家庭は極端です。
福祉局と話し合い、その後3人の子(ジャンレ、マイケル、ジャンジャン)をHOJで引き取ることになりました。
HOJにすっかり慣れたかのように見えたルベンですが、この里帰りで何か思うところがあったのでしょうか。
学校に通うよりも早く働きたい、カティイルに帰りたいと言うようになりました。
そこでカティイルの福祉局とも話し合った結果、
カティイルの警察署に住み込みで、掃除や配膳、皿洗いなどの仕事をさせてもらうことになりました。
ストリート時代にさんざんお世話になっていた警察署長さんがルベンのことをよく覚えていて、
生まれ変わったように成長した姿をとても喜んでくれて実現したんです。
今もルベンはカティイルで、警察署の手伝いと、実家の手伝いをしながらたくましく暮らしています。
もうすぐ夏休みになるので、ジャンジャンたちを久々にお兄ちゃんに会いに連れて行ってやりたいと思います。