クリスティーナの物語

クリスティーナは2004年にHOJに来ました。

酒飲みで働かない暴力的な夫に愛想をつかして母親が失踪。
あげくに父親も別に愛人を作って出て行ってしまい、家にはクリスティーナを長女とする7人の兄弟が取り残されました。
そもそも父親が親戚中から縁を切られているような状態だったため、兄弟たちを引き取ってくれる親戚はいませんでした。
当時、一番下の妹はまだ1歳…。12歳のクリスティーナが、一家の大黒柱となりました。
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クリスティーナは朝の3時に起きて市場へ行き、野菜を売り歩いて駄賃をもらうことでなんとか収入を得て、兄弟たちを養おうとしました。
学校に通えるような状況ではありません。こどもたちだけで暮らしているのですから、生活には限界があります。
料理用の薪を遠くまで取りに行く術がないので床板をはがして燃やし、それでインスタントラーメンをつくって、
売れ残りの野菜を入れて食べるような毎日が続いていたそうです。

そんな暮らしが数ヶ月続き、ようやくこの状況が近くの修道院のシスターに伝わります。
状況を見たシスターはすぐに福祉局に連絡、そしてハウスオブジョイに話が来ました。

現地に駆け付けた烏山さんはその場でこの子たちを引き取ることを決定、すぐにハウスオブジョイに連れて行くことになりました。
これからの新生活に向けて精一杯のおしゃれをした兄弟たち。
まるでサイズのあっていない服が、この子たちの状況と、これからの生活への不安と期待で揺らいだ心を映しだしているように思います。
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HOJにやってきて、落ち着いた生活を取り戻したクリスティーナは、自分よりも大きなお姉さんたちがいることに安心し、
こどもの表情に戻りました。
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学校でも人気者になりました。、クリスティーナはやっと「こども時代」を取り戻したのです。

そんなある日、1人の男が足を引きずりながらHOJにやってきました。男は自分はクリスティーナたちの父親だと名乗りました。
失踪していた父親に出会えたのですから兄弟たちは大喜びです。
ですがそんな中、クリスティーナだけは浮かない顔でした。「今さら何をしにきたの?」と腹を立てていたのです。
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しかもなんとこのとき、この父親はクリスティーナたちの「妹」にあたる子を連れて来ていたのです。
病気になって働けないからこの子も引き取ってくれ、と言って。

あまりの無神経、無責任にアイダさんが怒って、さんざん説教して追い返しましたが、
その後もこの父親はことあるごとにHOJにお金をせびりに来るようになりました。
フィリピンでは「こんな親でもこどもは親を尊敬するのか…」と驚くようなケースがよく見られるんですが、
そんな文化の中でも、さすがにクリスティーナはこの父親だけは許せないようで、父親が来るたびに部屋にこもって、顔を合わせないようにしていました。

この頃からクリスティーナは「高校を卒業したら大学に行って警官になりたい。そしてこどもを捨てるような人を逮捕したい」と言うようになりました。
そんなに勉強ができるタイプでもありませんでしたが、真面目さには定評があったので、予定通り高校も卒業。
HOJからの奨学金で大学の、警官になるためのコースに入学しました。

ですがここからクリスティーナの迷走が始まります。
授業をサボるようになり、あまり柄がいいとは言えない友達とつるむようになり、しまいには勝手に学校を辞めてダバオに行ってしまいました。

12歳から信じられないような責任を負わされ、その後はHOJの中でもずっと「いいお姉さん」を演じつづけてきたクリスティーナは、
HOJを卒業したと同時に得た「自由」に振り回されてしまったのでしょう。まあ、羽目をはずしたくなる気持ちは分からなくはありません。

大丈夫かな…と心配しながら遠くから見守っていたんですが、1年くらいでクリスティーナは「このままではいけない」と自分で思ったようで、
遠い親戚のつてをたどって仕事を紹介してもらい、それを転々としながらなんとか暮らすようになりました。

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そして2年ほど働いたのちに、ヨルダンへの出稼ぎを決意します。
中東の産油国に家政婦として出稼ぎに行くのはフィリピンの田舎の「貧困」から抜け出す、数少ない道のひとつなのです。

出稼ぎで稼いだお金はもちろんフィリピンにいる兄弟たちに送金。
HOJを出て就職し、安定収入を得ているウィリアムと協力して、なんと昔住んでいた家を再建しました。
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その後、いったんフィリピンに戻って来てウィリアムと同じマンゴー加工工場で働き始めましたが、
マンゴーの洗浄に使う洗剤にアレルギー反応が出てしまい、就業継続を断念、ふたたびヨルダンに行くことにしました。
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今でもヨルダンで家政婦として働きながら、兄弟たちに送金を続けるクリスティーナ。
はやく妹たち、弟たちも自立して、素敵な自分の家庭を築いてほしいですね。