ジェプリルは2005年、7歳のときにHOJにやってきました。
両親が犯罪に関与して逮捕、収監されて一緒に暮らせなくなり、何人かの兄弟は親戚の家で暮らすことになったのですが、
まだ小さかったジェプリルは「うちでは小さい子の面倒をみる余裕はない」と断られ行き場がなくなってしまいました。
そこで、日本では考えられないことですが、はじめは母親と一緒に刑務所の敷地内に住むことになりました。
フィリピンの刑務所は日本の刑務所とは全然違います。
言ってみればそこは、単に隔離された村のようなもので、敷地内に売店があったり、カラオケ屋があったりします。
もちろんそれを運営しているのは受刑者です。
模範囚や軽犯罪囚は、中での自由も結構あるらしく、携帯を持っている人も珍しくありません。
ジェプリルと同じように、親子で暮らしている人は他にもいたそうです。
とはいえ、やはりそこは刑務所です。こどもが成長するのに適した場所とはいえません。
これはさすがにまずいだろう、ということになり、ジェプリルは福祉局に保護され、HOJに来ることになったのです。
HOJにやってきたばかりの頃のジェプリルは、とてもやんちゃで、集団行動の苦手なタイプの子でした。
まあ、短い期間とはいえ、刑務所内で育っていたわけですから、無理はありません。
ですが、HOJになじむにつれ、ジェプリルはすごく「いい子」になっていきました。
「いい子」とカッコつきで書いたのは、ジェプリルのいい子さは、ちょっと他の子のいい子さとは違っていたからです。
なんというか、ものすごく「正義漢」っぽいというか、「融通が利かない」感じで、
周りの同世代の男の子たちとの間でいさかいを起こすことも多かったです。
これはおそらく、親の無実を信じて待っているジェプリルの、願掛けのようなものだったのだと思います。
そんなジェプリルは、こどもたち同士でルールを決め合ってなんとなくやる遊びよりも、
バスケやサッカーといった、ちゃんとルールの決まった遊びを好むようになっていきます。
そういう遊びをやっていく中で、少しずつ周りの子たちとも仲良くなり、HOJの中に居場所ができていきました。
また、もの作りに非常に熱心に、丁寧に取り組む子で、粘土やレゴ、ペーパークラフトなどが大好きでした。
ジェプリルのエピソードで、ひとつ、絶対に忘れられないものがあります。
ジェプリルの腕には、刑務所時代に入れられた、小さな小さなタトゥーがありました。
日本ほどではありませんが、やはりフィリピンでもタトゥーは「アウトロー」のイメージです。
「いい子」のジェプリルはそれを人に見られることを嫌がっており、
写真にうつるときなどは、いつもその部分が隠れるようにしていました。
そんなとき、日本のロックバンド「宇宙戦隊ノイズ」がやってきました。
彼らは「宇宙からやってきた正義の味方!」というコンセプトのバンドなのですが、
口だけではなく、実際にライブやグッズ販売の収益を、毎年奨学金としてHOJに持ってきてくれている、本物のヒーローです。
そのメンバーの1人、ドラマーのYAMATOさんは、腕中にタトゥーが入っていました。
「腕中にタトゥーを入れた正義の味方がいる!」
これは、ジェプリルにとっては、衝撃的な出会いでした。
2人はお互いのタトゥーを見せ合い、「仲間だな!」と喜び合っていました。
ジェプリルはそれ以来、自分のタトゥーを隠さなくなりました。
HOJで暮らして7年目。ついにジェプリルの待ちわびていた日がやってきました。そう、両親が釈放されたのです。
しかも、有罪が確定しての「刑期満了」ではなく「証拠不十分」での無罪放免です。
ずっと両親の無実を信じていたジェプリルの夢が叶ったのです。
ちょうどその年に小学校を卒業することになっていたジェプリルは、
学校を卒業するタイミングでHOJも卒業することになりました。
ジェプリルの旅立ちは、喜びにあふれたものでした。
今、ジェプリルは両親と暮らしながらハイスクールに通っています。
しっかり勉強して、将来はエンジニアになりたいそうです。
もの作りの隙だったジェプリルにはぴったりの将来像ですね。
ときどきHOJにも遊びに来て、こどもたちと遊んでくれています。
あの融通の利かなかったジェプリルが、やんちゃな子たちと遊んでいる姿を見て、
ああ、立派に成長したなあ、と思います。
これからもジェプリルの成長と活躍を、見守っていきたいと思います!