ジュヴィーは妹のジョリーナ、ジェリカと一緒に、2008年にHOJにやってきました。
バナイバナイという米どころとして有名な町のはずれで、ジュヴィーの家族は比較的まともな生活をしていました。
近所の人によれば、父親は高校を優秀な成績で卒業したような人だったそうです。
しかし、その父親はそのうち、アルコールにおぼれるようになり、薬物などにも手を出すようになっていきました。
日に日に横暴になっていく父親から、逃げるように母親が家を出て行ってしまいました。
当時、ジュヴィーは5歳。ジョリーナは3歳、ジェリカは2歳でした。
父親はさらにお酒におぼれるようになり、まったく働かなくなってしまいました。
収入がないので3度の食事にも事欠くようになり、
父親はジュヴィーたちに「近所の人に食べ物をわけてもらってこい」と物乞いを強要するようになりました。
当時のことを「酔っ払いが一番気前がいいのよ」と笑顔で話すジュヴィーに、ドキッとしたのが忘れられません。
父親の酒への依存はさらに度を越したものになり、ついにはこどもたちに手をあげるようになります。
ジュヴィーたちには少し大きいお兄さんもいるんですが、その子は病気のお婆さんの介護につきっきりで、
助けを求めることもできません。そこでジュヴィーは、二人の妹を連れて家出することを決意します。
人の集まるバスターミナルのある場所まで1時間くらいかけて歩き、そこで物乞いを始めました。
犬のように追い払われることがほとんどでしたが、なんとかその日の食事にありつくことはできたようです。
さすがにバスターミナルで働いている人たちが心配して、村長さんに連絡し、ジュヴィーたちは福祉局に保護されました。
父親はさらにめちゃくちゃになっていて、近所の家のテレビを盗もうとして捕まり、刑務所に入っていました。
福祉局は引き取ってくれる親戚を探しましたが、結局だれも引き取ってくれず、手続を経てHOJにやってきました。
幼い時期に母親に置き去りにされ、父親に虐待され、近所の人に疎んじられた経験からか、
入ってきた日の「何も信じられない」という表情は、幼い子とは思えない、厳しいものでした。
それでも、HOJで安心して眠れて、3食きちんと食べられて、何よりも同じつらい経験をもった子たちと一緒に暮らし、遊ぶ中で
ジュヴィーは急速に笑顔を取り戻していきます。
とはいえ、情緒が安定するのには時間がかかりました。
ちょっと肩がぶつかったり、自分が置いた場所に自分のサンダルがなかったりするだけで、
ジュヴィーは癇癪を起して大騒ぎになることがしょっちゅうでした。
学校に通うようになると、すぐにこの子がものすごく頭が良い子なのだということが分かりました。
英語や算数などの教科だけでなく、ダンスや絵も得意で、足もはやく、教室で一目置かれるようになっていきます。
HOJでも活躍の場が増えると共に褒められることが増え、自信がつくとともに癇癪を起こすことも減っていきました。
そんなジュヴィーに、ある日、ひとつの知らせがやってきました。
父親が刑務所で病気になり、釈放されてすぐに死んでしまった、というのです。
それを聞いて、ジュヴィーはボロボロと泣き出しました。
どんな父親でも、やっぱりジュヴィーにとっては彼は「お父さん」だったんです。
成長するにつれ、ジュヴィーには特異な才能があることが分かってきました。それは「ストーリーを作る才能」です。
ジュヴィーにかかれば、ただの鬼ごっこが「ワニから逃げる子猫たち」の大スペクタクルになり、
ただの砂山びが「砂の王国のお姫様の宮殿」になりました。
他にも、ジュヴィーが開発した面白い遊びは枚挙にいとまがありません。本当にひょうきんな子なんです。
ジュヴィーと遊ぶと、普通に遊ぶよりもずっと楽しいので、ジュヴィーの周りには自然とこどもたちが集まります。
言葉が通じないはずの日本から来たこどもでもそうなのですから、これはもう、本物です。
将来は学校の先生になりたいと言っていますが、天職なのではないかと思います。
そのジュヴィーも小学校を卒業し、中学校に進むことになりました。
そしてなんと!ついに引き取ってくれるという親戚がHOJのすぐそばで見つかり、HOJを「卒業」していくことになりました。
今でもジュヴィーは週末になるとHOJに遊びに来てくれます。
そうすると、HOJの照明が40%くらい明るくなったようになります。本当に素敵な子です。
今後もこの子の成長を見守り続けたいと思います!